2022年08月17日
現在開催中の企画展「三沢厚彦 ANIMALS IN NAGAOKA」に関連し、彫刻家の三沢厚彦さんと、青木野枝さんをお招きし、7月31日にクロストークを行いました。共に最前線で活躍し、旧知の仲でもあるお二人。終始リラックスした雰囲気でトークが進みました。
青木さんは、当館の屋外彫刻《亀池・蓮池》の制作者でもあります。作品を設置したのは1997年。設置当初の写真を見ながら、当時はまだ周囲に「屋外に彫刻を置いていいのか」という感覚があったとし、青木さん自身は、室内では起こりえない環境の変化がある屋外を、好ましく思っていたと当時を回想。
三沢さんは、現在の屋外彫刻では環境に応じてプランを変えていくスタンスが主流であるとし、青木さんの《亀池・蓮池》の時間の経過で素材の表情が変化していく特徴は、現在の潮流の初期に位置づけられるのではないかと指摘。青木さん達の世代が自由にやってくれたから、今のサイト・スペシフィックな屋外彫刻につながっていったのではないか、と述べられていました。
近年ふたりが共演した、三沢さん企画監修のグループ展「オムニスカルプチャーズ——彫刻となる場所」(2021年)にも話題が及びました。武蔵野美術大学美術館で開催されたこの展覧会には、幅広い年代の11名の彫刻家が参加。「彫刻の全方位性(≒omniオムニ)」をテーマに、作品どうしの、また展示空間との関係を問い、全方位的な彫刻の在りようを示した、意欲的な展示でした。この展示の空間構成を行ったのが、画家の杉戸洋さん。三沢さんは杉戸さんの独特の感性に、絶大な信頼をおいておられるようです。
じつは現在展示中のアニマルハウス作品《オカピ》も、杉戸さんが構成してくださっています。即興で杉戸さんが描いた長岡の喫茶店の絵が、オカピのまわりのどこかに置かれている…という長岡を知る人にはうれしい情報も。
話題は変わり、青木さんの作品の話へ。青木さんの作品の中には、空間を埋め尽くすような巨大な作品があります。そのような作品は、そのままでは会場内に搬入できないので、作品のパーツを持ち込んで現場で組み立てていきます。青木さんはその際、よく失敗しないのか、と聞かれるそうですが、自身の考える完成の着地点が広いので、失敗は無いといいます。
また、自身が作品を制作してきた時間や環境など、その時その時に青木さんが抱える「熱量」が作品に反映されるので、同じ作品を別の会場で並べても全く同じ作品にはならないそうです。いかに青木さんがその時々の「瞬間」を大切に、作品制作を行っているかが伝わってきました。
三沢さんは人々が抱える「リアリティ」を追求し、作品制作をされていますが、青木さんから興味深いエピソードが。グループ展「空間に線を引く-彫刻とデッサン展」に参加した際、青木さんは盲学校の子どもたちとともに、同展に出品されている三沢さんのクマ作品の鑑賞をしたそうです。特別に作品を触って鑑賞をしたところ、目の見えない子が、これはクマであると認識したというのです。その子の中にある、その子なりの蓄積された「クマ」のリアリティが、三沢作品の中にあったのでしょうか。あらゆる人々のリアリティを受け止める、アニマルズ作品の包容力を改めて感じさせるお話でした。
最後にお二人には、作品制作の今後や、興味があることなどについてお話しいただきました。三沢さんは現在自身の関心が「キメラ」にあることに触れ、こういった動物が現れる時代性というものがあり、今がその時代なのではないか。作品のイメージをどう作品に具現化していくのかは、大事なことだと思っていると、おっしゃっておられました。今後、キメラのイメージがどのように作品として具現化していくのでしょうか。三沢さんの今後の制作に期待が高まります。
青木さんからは、今までやったことのないことをどんどんやってみたい、と意欲的に語ってくださいました。最近ではラフティングに挑戦したといいます。興味ある「水面」を水中から見ようとしたら、ライフジャケットの性能が良すぎて潜れなかったという、微笑ましいエピソードも。沸き起こる様々な興味関心が、青木さんの作品制作につながっているのだと、あらためて実感させられました。
様々な話題をお聞きすることができ、とても充実した90分でした。企画展「三沢厚彦 ANIMALS IN NAGAOKA」は9月25日(日)まで開催中です。
また、青木野枝さんの《亀池・蓮池》は当館の屋外に設置されています。いつでもご覧いただけますので、ぜひこの機会にあわせてご鑑賞ください。