2022年02月12日
現在コレクション展では、生誕130周年を迎えた彫刻家・羽下修三の小特集展示を行っています。当館所蔵の羽下作品3点のうち、《二千六百年を舞う》は、戦前に制作され、時代を色濃く反映したという意味でも貴重な作例でしょう。さらにこの作品を特徴的なものとしているのが、人物の衣装です。
1940年(昭和15)、神武天皇即位紀元二千六百年を祝う一連の行事が日本各地で盛大に行われました。宮内省楽部は、この機に長らく途絶えていた新作舞楽を復活させ、「昭和楽」を完成させます。正式演目「悠久」とともに、初演は日比谷公会堂で行われました
羽下の《二千六百年を舞う》はこの「昭和楽」を舞う武人の姿を題材にした作品です。
羽下は宮内省楽部の指導のもとスケッチを行い、1942年(昭和17)、作品を完成させました。この「昭和楽」は「治乱泰平ノ意ヲ表徴スル」舞楽とされ(『紀元二千六百年祝典記録』)、神武天皇創業当時を彷彿とさせる古代武人が、戦争という当時の時局を背景に、乱を治め太平の世を謳うという、紀元二千六百年祝典に相応しい主題を持ち、かつ当時の時代性を反映することが目指されていました。このことから舞人の衣装は所謂埴輪のような、古代の武人の姿になっているのです。
装束の考案にあたって作曲者の多忠朝は、各地の寺社や博物館の資料等を調査し、宮中装束製作に携わってきた高田装束(現高田装束研究所)の高田義男がその一切を検証し、調製しました。『祝典記録』には調製にあたって実際どのような資料が参考にされたかがこと細かに記されています。例えば、衝角冑(かぶと)は、石川県狐山古墳出土品(東京国立博物館蔵)、甲(よろい)は熊本県江田船山古墳出土品(東京国立博物館蔵)、弓は正倉院御物・・・というように、舞人が身につけているもの一つ一つが実物の資料等を参考にして作られました。
多くの時間と労力をかけて制作された舞人の衣装は、羽下の作品でもその特徴が捉えられています(※武具等一部後補)。幻となった舞楽の様子に思いを馳せながら、その衣装ひとつひとつにも注目していただきたい作品です。
(主任学芸員 伊澤朋美)