学芸員コラム㉒ 開館30年を振り返って。(異聞)――幻の3つめの県立美術館

2023年07月01日

学芸員コラム㉒ 開館30年を振り返って。(異聞)――幻の3つめの県立美術館

 7月15日は、新潟県立近代美術館の開館記念日、平成5年(1993)の開館以来、丸30年経ちました。そして31年目の始まりの日でもあります。また一方、7月12日は、万代島美術館の開館記念日。こちらも丸20年となりました。何と月日の経つのは早いこと、そう感じるのは、〝ときめき〟が少なくなったせいでしょうか?

 両館共、開館記念年ということで各種催事等を企画して、美術館活動を進め、また、近代美術館では30年間を振り返っての展示や、館の便り『雪椿通信』に記事を掲載していますが、万代島美術館開館と並行して、やはり丁度20年前に3つめの県立美術館建設の話があったこと、皆さんは覚えておられるでしょうか。20年も経ち、記憶に残っていない、あるいは知らない方も多いと思いますので、携わった者として、ちょっと記しておきたいと思います。

 幻となった美術館は、柏崎市の現・夢の森公園(新潟産業大学隣り)内に建設予定でした。平成12年(2002)1月18日付の新潟日報紙上に、前日3館目の美術館建設について県から公表された、との記事が掲載された時には、美術館職員の誰一人知らず、「えっ本当?」と、一同、びっくりしたことを覚えています。計画は、「柏崎に3つめの県立美術館を作る。そこには池を造って、フランス・ジベルニーにあるモネの庭の池に咲いている睡蓮の株分けしたものを育て、写生活動などを行う体験型の活動の拠点とする」というものでした。

 3館目の新美術館は、近代美術館や新設の万代島美術館とは異なる、「体験型の美術館」ということで、その春以降、どのような体験活動が相応しいか等、施設面の整備を含め、いろいろな候補案を検討し、進捗に合わせて少しずつ具体案を公にしていきました。そして、それと並行して、多くの皆様から様々な御意見をいただきました。それは同年7月に開館を待っている万代島美術館の影が薄くなる程でした。しかしながら、様々いただいた御意見と県の案との調整等々困難を極め、『モネの庭のある体験型美術館』の当初計画は、断念せざるを得なくなり、同年秋、3つめの美術館の建設は白紙撤回、幻の美術館となったのでした。

 現在、美術館建設予定地を含む、夢の森公園の設置目的は、「自然との共生を考える場を提供していくことを基本コンセプトとし、市民の協働のもと、里山の復元やさらに新たな循環の仕組みを提案できるような公園つくりを目指すとともに、この公園を中核フィールドとして、自然体験、環境エネルギー教育、ライフスタイル教育といった3つの柱で運営していく「環境学校」を展開していく公園事業」と、ホームページで見ることができます。そして、そのホームページの中では、今、正に世界中で取り組まれているSDGsの考えも記してあり、その中でも重要視されている環境保護について、「やっと時代が追いついたか…」と、そこに住む生き物たちの代弁の声も記されています。自然との共生の体験、実践の場として、派手な観光地ではない、しかし、際立った性格を持った公園となっていることができた、そして、それは地元柏崎市民が15年間努力した成果の場となったのではないか、と、3つめの美術館建設断念から20年経った今、思うのでした。 (学芸課長 松矢国憲)

柏崎・夢の森公園ガイドマップより転載。