2023年03月29日
冬にあれほどあった雪がようやく消えました。蝶もひらひらし始めるなど、春の訪れを感じられる季節となりました。美術館から信濃川河畔に出るとぽかぽかとした陽気が感じられます。
春の情景を歌った曲の一つに滝廉太郎の「花」があります。元々は歌曲集「四季」の一つとして作られたものですが、現在では他の3曲(「納涼」「月」「雪」)は歌われることは少なくなっています。1番と2番では船の行き交いや岸の植物など華やかな隅田川が歌詞に織り込まれ、3番ではおぼろ月が登る夜の風景が描かれるとともに、「一刻も千金のながめを何にたとうべき」と結んでいます。春のおぼろな月の情景を描いた名曲に「朧月夜」もあり、春の夜といえば霞んでいるイメージですが、これは黄砂やPM2.5が原因だと言われています。身も蓋もありませんね。春は次第に暖かくなり夜長を楽しむことができるようになることから、夏や秋の夜とは異なる私たちの心をつき動かす何かがあるように感じられます。
春の夜を描いた作品の一つに当館所蔵の鏑木清方《春の夜のうらみ》があります。歌舞伎の「京鹿子娘道成寺」を題材に赤い振り袖姿の女性を描いたものです。大蛇に焼かれて鐘を失った道成寺に新たに鐘が奉納され、鐘の供養を行うこととなったところ、花子という白拍子が現れ鐘を拝ませてほしいと頼んできたことから舞を舞うことを条件に寺に招き入れる、というストーリーです。
作品の女性はキリッと立ちながら顔を上に向けています。その視線の先には鐘があるとされています。「春の夜のうらみ」というタイトルにあるようになぜ鐘にうらみを持つのか、については歌舞伎の作品をお楽しみいただくのがよいかもしれません。
タイトルは恐ろしそうですが、鏑木清方はこの作品の自己採点で「会心の作」(約500点中16点しかありません)と評価しています。この傑作をぜひ当館で御覧ください。(※2023年度コレクション展 第4期で展示予定です)
春は人の動く季節でもあります。私もこの春で退職となり2年間の美術館館長を退任することとなりました。お世話になった皆さまに深く感謝申し上げるとともに今後とも新潟県立近代美術館ならびに万代島美術館をよろしくお願いしたします。ありがとうございました。
( 館長 遠藤 聡 )