2022年09月06日
現在開催中の企画展「三沢厚彦 ANIMALS IN NAGAOKA」。樟(クスノキ)の丸太を素材に、等身大に彫り出された個性豊かな動物たち、「アニマルズ」が一堂に並ぶ様子は、迫力満点です。これらのアニマルズはどんなふうに展示されたのでしょうか?今回のコラムでは展示ができ上がるまでの様子の一部と本展の特徴を併せてご紹介します。
今回展示されている100点超の作品は、なんと4tトラック7台(!)で運ばれてきました。
大型のアニマルズは木枠で梱包されており、リフターに乗せられ展示室まで運ばれて行きます。丸太と寄木で作られ、内刳りが施されていないアニマルズは重量があるので、数人がかりで運びます。
その重量のあるアニマルズを、展示台上に乗せるのは大掛かりな作業になります。門型クレーンを用い、作品を吊り浮かせて、ゆっくりと動かしていきます。三沢さんが作品の位置を確認し、微調整をして位置が決まったら、そっと台に作品をおろしていきます。
麒麟はさらに、三沢さんが両翼をボルトで取り付けて完成。完成した麒麟はどこか凛々しい表情です。
今回、麒麟等数点の作品が角材を用いた展示台の上に設置されていますが、一方でホワイトアニマルズのエリアで多用されているのが「絨毯」。ペガサスやフェニックスなどの下にはペルシャ風の絨毯が敷かれています。
これらの絨毯は実は当初は使用する予定はなく、展示途中で急きょ使うことに。思ったよりしっくりとおさまったので、持ってきたすべての絨毯を使うことになりました。過去にも三沢さんの展示で使用されてきた絨毯。自然な結界としての役割も果たし、作品とのコントラストや意外性が独特の雰囲気を醸し出します。
同じく絨毯の上に展示されている作品が、アニマルハウス(註)のアーティストたちによる共同制作作品《オカピ》。このオカピの周囲にも関連作品が多数並べられています。このしつらえを行ってくれたのが、アニマルハウスメンバーのひとり・画家の杉戸洋さんです。展示作業終盤に駆けつけてくれた杉戸さんの構成は、三沢さんも大絶賛!長岡ゆかりの作品も即興で描いてくださいました。
床がそのまませり上がった台上に並ぶ、多種多様の動物たち。
この「動物大行進」のエリアは、可動床を活用した当館ならではの展示となっています。動物の並び方については、三沢さんと現場でも検討を重ねて完成させました。少し離れたある場所に立つと、すべての動物が重ならずに見ることができます。
三沢さんは、動物をモチーフにするのは、所謂「小品」「大作」といった価値観に縛られずに自由に制作できるからだといいます。サイならサイ、リスならリスのその大きさがそれぞれの持つアイデンティテイであり、この展示にはそれぞれの動物の豊かな個性が生き生きと表現されており、アニマルズの象徴的な展示になっています。
「彫刻作品はアトリエで完成を迎える。そして、展示することにより、もうひとつの完成を迎える。」
様々な過程を経て今、展示室で“完成”したアニマルズたちのその姿をぜひ、会場でご覧いただければ幸いです。 (主任学芸員 伊澤朋美)
(註)アニマルハウス…渋谷区立松濤美術館で2017年に開催された「三沢厚彦 アニマルハウス 謎の館」展は、白井晟一設計の特徴的な美術館を「謎の館」に見立て、“館の主人”である三沢が舟越桂、小林正人、杉戸洋、浅田政志の4人のアーティストを招き、そこで誘発される出来事を展示するという斬新な試みだった。