学芸日誌③ 「会田誠 GROUND NO PLAN」の冒険

2018年11月06日

 先々月の22日、新潟市美術協会50周年事業として会田誠さんの講演会が新潟市音楽文化会館ホールで開催され、多くの方々が聴講されたようです。当館職員や木村館長も参加しましたが、私は所用のため残念ながら伺うことができませんでした。
 当館では2015年秋に「会田誠展 ま、Still Aliveってこーゆーこと」を開催しています。その会期中、会田さんは企画展示室内で来館者とともに、ワークショップ型の巨大なインスタレーション《Monument For Nothing Ⅱ》を制作、そのため会田さんはほぼ毎日、当館におられました。そんな縁もあり、ご挨拶だけでもとご連絡したところ、帰京間際のお時間を頂くことができました。その中で、本年2月に東京の港区北青山で行われた個展「会田誠展 GROUND NO PLAN」のお話がありました。
 この展覧会は公益財団法人大林財団による助成プログラム、《都市のヴィジョン-Obayashi Foundation Research Program》の一環で行われたもので、これからの都市像をアーティストの側から提案してもらうことを目的に始められたプロジェクトですが、その第1回目のアーティストとして会田誠さんが選ばれたとの事です。私自身、この展覧会に衝撃を受けた一人でもあり、その意味でも会田さんとのお話は貴重な機会となりました。
 さて、本展ですが、会田さんの作品を1点1点、じっくりと見せるというより、展覧会全体が巨大な1つのインスタレーションといった様相のもので、《新宿御苑大改造計画》(2001)や《国際会議で演説をする日本の総理大臣と名乗る男のビデオ》(2014)といった既存の作品と新作、さらに友人の現代美術作家、山口晃さんや会田さんが応援しているアーティスト「Chim↑Pom」等の多岐に渡る作品が、地下1階と2階の入り組んだスペースに縦横無尽に展示されています。
 最初はあまりの猥雑さに、作品を鑑賞するというより、どこから手をつければ良いのかわからず途方に暮れてしまいました。それでも会場を進みながら、あまりに無茶な内容が記された立看板群に亞然としたり、会田さん自身がドイツのコンセプチュアル・アーティスト、ヨーゼフ・ボイスに扮して、沢田研二さんの「カサブランカ・ダンデイ」の替え歌を歌いまくるという、ビデオ作品《アーティスティク・ダンディ》に笑い転げているうちに、展示されている作品がそれぞれ有機的に結びついて、会田さんの都市に対する首尾一貫した想いが、会場全体を覆い尽くしていることに気がつきました。一度、この感覚に行き着いてしまうと、意外なほどクリアで誠実な会田さんのメッセージが見えてくるのです。
 建築におけるモダン/ポストモダンの考え方は、都市が飽和状態になると、どちらの立場をとったとしても、人々の中に閉塞感を生み出し、人間を人間たらしめている要素を阻害していく。だから人間が住みやすい場所とは、単に「都市」とか「自然」といった、二元論では論じられない、街の中に明らかに存在しながら、可視化されない「隙間」(あるいは「余白」)の中にこそあると、会田さんは教えてくれたような気がします。
 会場を出たとき、かつて村上春樹さんがあるエッセイの中で、良い国(「社会」だったかも)とは、生きていく上で逃げ道がたくさんある国である、と書いていたことを、ふと思い出しました。

(新潟県立近代美術館・学芸課長 藤田裕彦)