2018年09月21日
7月、文部科学省主催の会議に出席した後、東京都美術館(上野)の「プーシキン美術館展」を訪ねました。平日の暑い日でしたが会場は混んでいて、美術ファンの多さに感心しました。お目当ての作品があった訳ではありませんが、会場を進むとフランスの画家アンリ・ルソーの《馬を襲うジャガー》がありました。周りに人がいなかったのでゆっくり鑑賞しました。
遠い存在だったアンリ・ルソーが、気になる画家になったのは小説『楽園のカンヴァス』(原田マハ著)を読んでからです。ルソー最晩年の代表作といわれる《夢》とほぼ瓜二つの作品の真贋を巡って、展開する謎めいたストーリー。文中に「生きているあいだにはろくに評価されず、子供の絵だと揶揄された、不遇の画家」とあるルソー。その人の生きざま、絵画への執念に触れて、好きな画家の一人になりました。なにしろ60歳を過ぎてあの素朴な絵画が描けるのですから。余談ですが、著者の原田マハさんは2年前に「モネ展」講演のため、新潟県立近代美術館に来ていただいたことがあります。本館のある長岡市は新潟県の中央に位置し、小林虎三郎の米百俵精神や河井継之助、最近ではフェニックス花火で有名な都市です。
小説のテーマとなったルソーの《夢》は、ニューヨーク近代美術館が収蔵する代表的作品の一つです。本館にも、《私の夢》※という優れた作品があります。藤田嗣治の作品です。藤田の夢シリーズの中でも秀作だと思っています。国内、海外から貸し出し希望が多い作品です。館のロゴもどことなく似ています。ニューヨーク近代美術館は「MoMA」。本館は有名なデザイナー亀倉雄策さんが制作したものです。世界的に知られたニューヨーク近代美術館には迷惑かもしれませんが、勝手に親しみを感じています。
今年、本館は開館25周年を迎えました。収蔵美術品は開館当初の4千点から6千点余に増えました。優れた作品を多く収蔵していると自負しております。これらはすべて県民の皆さまの貴重な財産です。美術や芸術に親しんでいただくことで、人も地域も元気に、そして心豊かになると確信しています。県立近代美術館と、姉妹館である新潟市の県立万代島美術館は力を合わせて、名作・名品を県民の皆さまから身近に鑑賞していただけるよう、日々研鑽を重ねています。美術館でお会いしましょう。
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本館は今年7月から休館に入りました。美術館の収蔵品は室温22度、湿度55%という最適の状態で管理されています。開館から25年、心臓部といえる空調システムが息切れ寸前です。空調を中心とした改修工事のための休館です。およそ1年間の予定です。この間、県民の皆さまにご不便をおかけします。名作に触れることができませんが、日本画、洋画、書、工芸などを専門とする美術館学芸員が、美術・芸術に関するとっておきの話を紹介するリレーエッセイ「学芸日誌」を始めます。(館長・木村哲郎)
※当館の《私の夢》は、現在、東京都美術館で開催されている「没後50年 藤田嗣治展」(~10/8)に展示されています。その後、本展は京都国立近代美術館に巡回(10/19~12/16)し、こちらでも展示されます。