2019年07月29日
当館が大規模改修工事に入って1年になります。工事の概要はこれまでにご紹介しました。①美術館の心臓部といっていい空調システムの更新②LED化など照明施設の更新③外壁の修復─が中心です。空調システムは開館以来25年、若干の補修はあったようですが休まず働いてくれた頑張り屋さん、今日まで大きなトラブルが無かったことに感謝しています。 空調関係の工事が本格化した今年の4月1日、収蔵庫につながるラインを除いた全館空調システムがストップしました。収蔵庫内はつねに室温22度、湿度55%と〞常春〞の状態。一方この日、当館がある新潟県長岡市の最高気温はわずか8.4度。エアコンの効かない事務室は冬に逆戻りし、ダウンを着たまま机に向かうスタッフが何人もいました。この状態は10連休となったゴールデンウイーク前まで続きました。7月上旬には給水ポンプが悲鳴を上げ、蛇口の水もトイレの水もストップ。なんとか応急処置で復旧しましたが、専門家から「いつパンクしてもおかしくない」というありがたくないお墨付きをもらう始末。泣きっ面に蜂とはまさにこのことです。でも〞不幸〞はいつまでも続くものではありません。外壁や照明の改修は順調に進み、空調の工事も7月中旬に入って冷たい空気を事務室に送り出すまでにこぎつけました。これから夏本番を迎える中でスタッフ一同、胸をなでおろしたところです。 改修工事は一部の工事が残るものの、8月末までに終了の見込みです。待ちに待った改修工事の終了です。9月14日(土)から、美術館にとって大きな使命である展覧会を開催します。「新潟の美術(小特集・横山操)」「近代美術館の名品」という2つのテーマで開くコレクション展です。所蔵美術品6000点の中から選りすぐりの作品をご覧いただきます。乞うご期待です。10月12日(土)からは大人から子どもまで楽しんでいただける「PIXAR(ピクサー)のひみつ展」が開幕します。既に前売り券の販売がスタートしました。県内ではプレイガイド、NIC新潟日報販売店などで前売り券を取り扱っています。また県内外のコンビニでもお買い求めいただけます。こちらの展覧会もご覧いただければありがたいです。 当館が休館中に明るいニュースが飛び込んできました。日本を代表する現代美術家、斎藤義重の代表作品の一つ「大智浄光」がこのほど、長岡市で正式に存続が決まったのです。この作品は銅製のレリーフで高さ3.7メートル、幅23メートルの大作。これまで長岡商工会議所の壁面を飾っていました。長岡商工会議所一帯が再開発されるのに伴い、建物の取り壊しで引っ越し先が関心を集めていました。7月3日に長岡商工会議所の丸山智会頭が磯田達伸市長を訪ねて寄贈を申し入れ、併せて目録を手渡しました。長岡市では再開発後に建てられる市の施設に設置する方針です。この席には斎藤義重の長男・和土さん(68歳)も同席し、お父上の作品が末永く長岡市民に愛されることになったのをとても喜んでいたそうです。 「大智浄光」は今から50年以上前の1964年、商工会議所が入る建物が出来上がり、同時に私立の「長岡現代美術館」が設立された際、設置されました。長岡現代美術館は日本で初めて館名に「現代美術」を用いた美術館といわれています。大げさでなく、国内外から注目を集めた時期もありました。当館(新潟県立近代美術館)が開館するのは約30年後の1993年、姉妹館である県立万代島美術館が開館するのはそれからまた10年後の2003年です。長岡現代美術館は時代の一歩先、二歩先ではなく、はるか半世紀先を走っていました。その証人が斎藤義重の「大智浄光」なのです。当館の藤田裕彦学芸課長は「60年代に制作された斎藤のレリーフ作品自体が斎藤義重を代表するシリーズであるが、さらに、その当時では概念的にも珍しかったインスタレーションという形式で、これだけ大規模に野外設置されている作例を他には知らない。その意味では斎藤義重の希有で貴重な作例であると同時に、まさに代表作である。」と話しています。長岡市や長岡商工会議所など関係者の皆さまのこれまでのご努力に、深く敬意を表したいと思います。(館長・木村 哲郎)
写真は「大智浄光」