学芸日誌② 秋田県立近代美術館で「鴻池朋子 ハンターギャザラー」展を観る。

2018年10月18日

     美術館の来館者は土・日・祝日が多いため、職員の週休日は不定期になります。さらに、ゴールデンウィークなどの連休を、限られた職員で対応しようとすると、週休日はより不規則になり、その他の業務とも絡んで、職員全員が顔を合わせる機会が1箇月間全く無いという現象も起こります。また、今後の活動に生かせそうな他館のワークショップが土・日・祝の開催で参加できなかったり、我々のお休みが多い月曜日は他館も休館日で、必要な展覧会が観られなかったりと、美術館運営の上での不都合も多々あります。現在、近代美術館は改修中で、美術館は県庁と同じ勤務形態となっていることから、休日に秋田県立近代美術館で開催されている「鴻池朋子   ハンターギャザラー」展を観ることができました。
 鴻池さんは秋田県出身の現代美術作家ですが、新潟県にも縁があります。当館では2009年に「neoteny japan」(7/21-9/10)で、2010年と2012年には新潟県立万代島美術館の「物語の絵画」(10/9-11/28)、「ジパング展」(10/6-12/2)、さらに2016年、同館で県内初個展となる、鴻池朋子展 「皮と針と糸と」(12/17-2017/2/12)を開催しています。
 万代島美術館の展覧会では、巡回展のコンセプトである「根源的暴力」に加え、「縫う」ことを主題に再構成し、幅24mに及ぶ《革緞帳》を発表しました。現在の「縫う」という「技術」が、かつて「美術」と「呪術」と未分化であった原始時代へ遡行することで、改めて「つくる」意味を問う展覧会であったように思います。
 秋田県立近代美術館では、さらに一歩進め、ハンターギャザラー(=狩猟採集民)という、人間が自然界のものを搾取し、都合のいい形態へ変換して享受するという、人間界の根源的な営みを、180度反転させるコンセプトを導きだしました。従って、この展覧会で表現されているのは、人間が主体の世界ではなく、人間が自然の一部へと回帰していく姿です。それは、例えば《ドリーム ハンティング グラウンズ》と名付けられたカービング壁画とインスタレーションに象徴されていると思います。木やアルミといった素材以外にもクマ、オオカミ、シカなどの毛皮が使用された本作は、壁画と合わせて展示室を占拠し、さらに会場内には秋田おはら節が流されるなど、いくつかの時代を超越して、人間の営為として表出してきた「美術」が、世界が未分化だった時代の、混沌とした自然の一部へと再び還元されていくように感じました。個人的には映像作品の《北の長持唄》(2018)における、鴻池さん自身が雪原の中で行った、自身の生命を賭したかのようなパフォーマンスに圧倒されました。
 必ずしも分かりやすくはなく、また単純な感動とは異なる次元で、心に何か澱(おり)のようなものが残る本展ですが、来館者の美的経験の幅を超えて、鴻池さんの感性と概念が直接的に鑑賞者を射貫くような、そんな展覧会でもあります。
 鴻池さんと美術館との理想的な姿が垣間見える本展は11月25日まで(会期中無休!)です。お近くの方は是非。 (学芸課長・藤田裕彦)

 ※本原稿の会場写真の掲載にあたり、鴻池朋子様より快くご了解を、また秋田県立近代美術館様よりご協力を頂きました。

 

《Dream Hunting Grounds》カービング壁画 (2018) / 《Dream Hunting Grounds》インスタレーション(2018)

《Dream Hunting Grounds》カービング壁画 (2018)

《Dream Hunting Grounds》インスタレーション(2018)

《皮緞帳》2015 / 《12人のホイト》2015 ※展覧会入口・中央ホール