私たちは、過去とどのように向き合い、またそこに何を見出すことができるのでしょうか。戦後60年の節目に、いま一度、時代の大きな転換点となった昭和戦前期の美術を振り返り、そこから現在私たちが立っている歴史的な位置見つめ直すことができないものでしょうか。
深刻な経済恐慌により失業者が激増、その波は農村にも及び、東北地方では飢えと娘の身売りが頻発するなど荒廃の一途をたどります。昭和初期には、こうした未曾有の不況下で小作争議が左翼運動とともに全国に広がり、美術界でも苦しむ労働者や農民と心情を共にし解放をめざすというプロレタリア美術運動が高潮します。しかし、官憲の度重なる弾圧により運動は一転して終息に向かいます。時は満州事変にはじまる十五年戦争期にあり、台頭する国家主義と戦局の拡大によって、対照的に国民精神を動因するための戦争美術が隆盛していくのでした。
こうした盛衰の歴史からも、両者は対極的な存在として位置づけられる傾向にありますが、他方で共通する要素を見出すことができます。政治的宣伝を目的に美術を手段とし、絵画をはじめ、彫刻、ポスター、雑誌、漫画など様々な形式を用いて展開した〈目的芸術〉であったことは、その主体者や規模及び質的な相違はあるものの実に似通った面を持っています。また、社会・政治と美術、テーマ主義、リアリズムなど、共有する問題点も少なくありません。
この展覧会は、昭和初期の美術界に顕著なプロレタリア美術と戦争美術という一見対極的な二つが〈目的芸術〉という点で結びつき、それが時代のうねりの中で不思議なほど連続していいたという矛盾ともいえる軌跡をたどることによって、そこに潜む問題を認識し再考する機会となることを期すものです。本展が、戦後60年という時間の存在とともに、美術を通してその原点となる昭和戦前の時代を顧みるひとつの契機となれば幸いです。