詩人・堀口大學(1892-1981)は、生涯に三百冊を超える著訳書を世に送り出していますが、それらは長谷川潔や棟方志功の挿画で飾られた造形作品としても評価され、また日本に初めて本格的にジャン・コクトーを紹介した功績があるなど、その活動の範囲と影響力は文学にとどまらず、絵画、音楽を含んで広く芸術一般に及んでいます。堀口は郷里長岡で幼少期を過ごした後、上京し、与謝野鉄幹が主宰する新詩社に入りますが、青年期に14年間に及ぶ外遊をし、第一次世界大戦中スペインに亡命していた画家マリー・ローランサンと出会ってフランスの同時代の芸術に目覚めます。中でもキュビスムの擁護者であった詩人アポリネールや前衛詩の先駆的な紹介を通して西欧世界への窓を大きく開いてみせた功績は特筆できるでしょう。帰国後、精力的に文学作品を発表した大正末から昭和初期にかけて、堀口は美しい詩集や翻訳書を次々と創り出して書物の歴史に残る一時代を築いていきます。第二次大戦によて一時期沈黙を強いられますが、疎開先新潟県妙高や高田の地に写真家濱谷浩、陶芸家齋藤三郎、彫刻家戸張幸男などの若き芸術家が集まってサロンの様相を呈するにつれ、堀口大學はその温かい人柄や高い理解によって彼らを見守り地方文化を育てる役割を果たしています。
本展ではこうした堀口と芸術との関わりに新たな光を当てて、様々な詩集装釘本や交友した芸術家たちの作品を中心に展観し、堀口が求めた美の世界を探りたいと思います。