日本の雑誌王と呼ばれた故野間清治氏(明治11年~昭和13年)は演説と講談と子供をこよなく愛した豪放快活な人物でした。講談社を興し雑誌の発行を通して知的な娯楽を提供したその活動は、大正期の市民文化の育成に大きな影響力を持っていました。その野間氏が多くの美術品を蒐集していたことは余り知られてはおりません。彼が眼を向けていたのは主に同時代の美術でした。その方針には美術家を援助し時代の美術を育てていこうとする配慮もうかがえます。コレクションは蒐集当時の雰囲気を伝え、古美術に傾きがちであった明治期の蒐集とは異なる特色を持っています。それは新たに到来した近代市民の時代、大衆の時代を反映したものとも言えましょう。この展覧会では、事業家であり有数の美術コレクターであった人物の眼を通して当時の社会と時代の価値観を捉えようと考え、構成を二部に分けました。第一部では野間氏の蒐集した一大コレクションの中から日本画の優品を展観し、第二部では雑誌出版に関わる挿絵原画などの美術資料からコレクションを生んだ時代背景を振り返ります。